王と母~『正祖暗殺ミステリー8日間』
正祖暗殺ミステリー8日間 2007年
出演:キム・サンジュン、チョン・エリ、パク・チョンチョル、イ・ソノ
ミステリーの名のとおり、朝鮮王朝第22代正祖の園幸(ウォネン=王の地方への巡幸)をきっかけに、暗躍する反乱分子の動きと、それを暴き王の身を守ろうとする文官チョン・ヤギョンらの活躍とかけひき。さらに正祖の父サド世子の死の真相に迫ろうとする正祖と、その母の攻防が絡み合いながら、濃厚な物語が広がってゆく。
朝鮮王朝の宮廷に渦巻く派閥同志の絶え間ない政争や、王族同士の骨肉の争い、お互いを探り合い、損得ない交ぜになったそれぞれの関係の複雑さに、なかなか頭がついていけませんが、丁寧なお話だけに、慣れてくると徐々に物語りに入り込んでいきます。
そんな暗いものと対を為すように美しく華麗な美術と衣裳。ドラマというよりも、映画のような奥行きのある画面が印象的なドラマでした。
惜しむらくは、ミステリー部分が分かりにくいところ。もちろん、朝鮮史に疎いということも分かりにくさの原因でしょうが、伏線が伏線として生きていないところがいくつもあって、せっかくの見せ場がさらりと流れてしまうのです。特に後半、正祖、老論派、王座を狙うムン・インバンの三勢力がぶつかりあうところは、もっと緊張して追い立てられるようなスピード感があってもいいのに、妙にもたついて、エピソードがぶつ切れになっているのが、つくづくもったいない。
王の襲撃を企む勢力と、それを阻もうとするヤギョンら重臣たちの動きがすべて終わってみても、なにがどうなって襲撃が失敗したのか、ヤギョンの読みがどういうふうに的中したのか、台詞で説明されてやっとぼんやり概要が分かるというふうで、カタルシスを感じることができないのが、もどかしく思えました。
本来なら、ドラマの“動”の部分たりえる部分の失速感が、もう少しどうにかなっていたら上質のミステリー娯楽作品になっていたような気がします。
それに対して、正祖とその生母・恵慶宮(ヘギョングン)を中心とした“静”の部分はすばらしかったです。
30年余り前の父の死に強いわだかまりを持ち、夫の死に母である恵慶宮が深くかかわっていると疑う正祖。園幸の機会に、宮殿の外でほとんど初めて真正面から向き合う二人。宮殿の中では、母と子である以上に、一国の君主と、宮殿の奥向きを統べる君主の母・大妃として対峙せざるをえない二人は、その背後に彼らに連なる勢力をひきずり、力の均衡によって身のふり方を決めざるを得ない。だから対立もするし、ときに血縁同志で命を奪い合うことにもなる。
そんな歪なつながり方から解き放たれて、過去にさまよう二人には、それとは別の触れると崩れそうな緊張感が生まれます。このチリチリとしたものは、ときには太く大きく、またときには跡形すらないほど微かなものに変わりながら、存在し続けます。
だからこそ、最後、真実が明らかになったとき、二人の流す涙に胸をつかれるのです。
決して、心温まるような、郷愁のある親子ではないけれど、王族なりの独特な形をした愛情が、精一杯の形でそこに存在するのを見ていると、初めて彼らに親近感を覚えたような気がしました。
恵慶宮を見ていると、当時、女性が宮殿の中で生きてゆくには、こんな方法しかなかったのかと哀しくなります。
我が子にすらその生き方を理解されず、孤高を保ちながら生きてゆく境遇は、決して羨ましいものではないけれど、王族として生まれ、そして死にゆくための必死の姿は、感動的ですらありました。この大妃の存在があって、初めて正祖の複雑な思いが生きてくる、そんな気がします。
緩急のつけ方が好みではなかったものの、細部まで丁寧につくられた作品でした。もしかすると、映像よりも文字でじっくりと楽しむのに向いている作品なのかもしれませんね。
※正祖の祖父・英祖は、『チャン・ヒビン』の粛宗の第2王子。つまり、オクチョンことチャン・ヒビンが呪い殺そうとしていたチェ淑儀の生んだ王子です。生まれたときも大変だったけれど、長じても自分の息子であるサド世子を死に追いやらざるをえなかったとは、波乱の人生だったのかも。やはり、オクチョンの恨みかしらん?
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